顔面神経麻痺Q&A
(Q6~Q10)

Q6顔面神経麻痺に対して星状神経節ブロックを勧められました。この治療について教えてください。

信太賢

信太賢治
昭和大学横浜市北部病院
麻酔科
教授

星状神経節とは頚部にある交感神経の名称です。この交感神経を局所麻酔薬によってブロック(遮断)すると顔面や頭部の血流を増加して顔面神経の障害部位のむくみや虚血を改善し、神経障害を最小限に抑え、再生を促進させる可能性があります。治療目的はステロイドと同じです。急性期では、できるだけ早期の治療が効果的で、頻回に行うことをお勧めしています。頚部に針を刺しますので、抗凝固薬や抗血小板薬を使用している場合には施行できません。
この治療法はステロイド治療が確立する前から麻酔科(ペインクリニック)で行われてきた長い歴史をもつ治療法です。一方で、科学的な根拠が得られていない側面もあります。星状神経節ブロックを勧められましたら、その効果と合併症について担当医とよく相談して決めてください。

Q7顔面神経減荷術を勧められましたが、この手術について教えてください。

濵田昌史

濵田昌史
東海大学医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
教授

薬物治療では治癒が期待できない顔面神経麻痺重症例に対して行われるのが顔面神経減荷術です。
側頭骨(耳の骨)の中で、顔面神経管と呼ばれるトンネルの中を走行している顔面神経は(図A)、ベル麻痺やラムゼイハント症候群では、原因ウイルスの再活性化(息を吹き返す様子)により腫れを生じ(図B)、その結果、周囲から顔面神経を栄養している血管の閉塞を来します(絞扼)。栄養を失った神経は死んでしまい(完全変性)、完全回復は期待できません。この完全変性を防ぐために顔面神経周囲の骨を除去し、絞扼を解除することにより栄養血管を復活させるとともに、顔面神経の上に薬物(その多くは腫れを取る副腎皮質ステロイド剤)を直接与えることで(図C)、より早く、よりよい治癒状態を目指すのが、顔面神経減荷術の目的となります。

顔面神経麻痺と顔面神経減荷術の概念図

顔面神経麻痺と顔面神経減荷術の概念図

  1. 顔面神経は、側頭骨内ではトンネル状の顔面神経管内を走行しており、顔面神経の周囲で骨との間には栄養血管が存在する。
  2. 麻痺した顔面神経は腫れ、周囲の栄養血管は虚脱(血液が流れない)状態となり、神経変性(死)が加速する(絞扼)。
  3. 顔面神経周囲の骨を手術によって除去し、栄養血管を再開通させるとともに、腫れた顔面神経に薬剤を直接投与する。

Q8麻痺になった時、鍼治療は受けた方が良いですか?発症後どのくらいの時期に受けた方が良いですか?どんな鍼灸治療院を探せば良いですか?

粕谷大智

粕谷大智
新潟医療福祉大学
リハビリテーション学部
鍼灸健康学科
教授

  1. 鍼の効果については、今のところ麻痺の回復を早めるといった効果は分かっていません。しかし、麻痺が遅延化して自覚する“こわばり感”や“ツッパリ感”を軽減し、患者さんご自身のセルフケアをしやすい状況にすることが効果として認められています。
  2. なので、どの時期に受ければ良いか?の答えとしては、まずはきちんと専門医を受診し、検査や標準治療を受けてください。その後、後遺症が残ると判断された場合、定期的に鍼灸を受けることも選択肢の一つです。鍼治療によりお顔の血行も良くなり、ストレスや顔面部の違和感も軽減し、日々の生活もしやすくなると思います。(図 一般的な治療部位)
  3. ベストな鍼灸院の見つけ方ですが、鍼灸治療以外にリハビリの仕方や日常生活の指導を教えてくれる鍼灸院を探す事が大事です。治療院のHPで鍼灸治療の方法だけでなく、リハビリや生活の工夫なども記載されている治療院はお勧めです。大事な事は薬物や鍼灸治療だけでなく、毎日行うご自身のセルフケアなどをしっかり行うことです。
一般的な鍼治療部位

一般的な鍼治療部位

顔面部の血流促進や筋肉のこわばりを緩和を目的に、髪の毛ほどの太さの細い鍼を用いて治療をします。

Q9顔面神経麻痺発症から3ヶ月が経ちました。顔は少し動き出した程度ですが、何か自分でできる対処法はありますか?

仲野春樹

仲野春樹
大阪医科薬科大学
リハビリテーション医学教室
講師

3ヶ月して、少し顔の動きがでてきたということは、ゆっくりとした回復経過になります。これから動きが戻ってくると同時に、病的共同運動という、眼を動かしたときに口角が上がったり、口を動かしたときに眼が細くなったりする後遺症が出てくる可能性があります。この病的共同運動を予防するためには、①鏡を見て眼を大きく開けたまま、(このとき眉毛はあまり上げない)口をすこしずつ動かす、②手で口を触って動きをチエックしながら、眼をゆっくり閉じる、といったバイオフィードバック療法というリハビリテーション治療が勧められます。このリハビリにはコツが要りますので、最初は顔面神経麻痺認定相談医あるいはリハビリテーション指導士に教えてもらうのがよいでしょう。

バイオフィードバック療法の例

バイオフィードバック療法の例

鏡を見て眼を大きく開けたまま、「イー」や「ウー」の形に口をすこしずつ動かします。

Q10ラムゼイハント症候群の発症から1年が経ちました。顔は少し動きますが目が閉じてうっとうしく感じます。何か良い治療法はありませんでしょうか?

橋川和信

橋川和信
名古屋大学医学部形成外科
准教授

顔面神経麻痺で片側の顔が動かなくなった後、治療によって動きが回復するに従い、①病的共同運動や②顔面拘縮などの症状が現れることがあります。①は回復過程で神経が間違った筋肉へと再生することで起こります。典型的なのは、口を動かしたときに、本人の意思とは関係なく瞼が閉じるという症状です。また、②は表情筋が短くなることで起こります。顔を動かしていないときでも、少し引きつったようになるのが典型的な症状です。これらに対する治療法としては、リハビリテーション、ボツリヌストキシン注射、手術などがあります。症状の種類や程度によって治療法が異なりますので、お近くの顔面神経麻痺相談医を受診されることをお勧めします。

顔を動かしていないとき

顔を動かしていないとき

顔面拘縮のため頬の筋肉が短くなり、顔を動かしていないときでも口角が上がっています。

「イー」と顔を動かしたとき

「イー」と顔を動かしたとき

病的共同運動のため、「イー」とするときに意思とは関係なく瞼が閉じてしまっています。

各都道府県別に顔面神経麻痺相談医のリストを公開しています。受診の際にご活用ください。

相談医・指導士一覧