顔面神経麻痺Q&A
(Q1~Q5)

Q1顔面神経麻痺はどの様な病気ですか?

羽藤直人

羽藤直人
愛媛大学医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
教授

顔面神経麻痺は、高頻度な脳神経麻痺の一種です。大部分は末梢性で、耳の奥の顔面神経の障害で麻痺が発症することがほとんどです。顔の筋肉(顔面表情筋)に力が入らなくなるので、目が閉じられない、眉が上がらない、口が閉まらず水がこぼれ、笑っても唇が動かない等の症状が、一側性に生じます。通常は脳の中には異常がなく、難聴、耳鳴り、めまい、味覚の低下や耳の痛みを伴うことはあっても、他の神経麻痺を合併することは稀です。顔を触った時の皮膚感覚は左右対称で、顔面の知覚麻痺は認めません。顔面神経麻痺は、早く診断して、早く治療することが何より大切なので、できるだけ早くお近くの耳鼻咽喉科を受診してください。

左高度顔面神経麻痺の表情

左高度顔面神経麻痺の表情

左の眉が下がり、目が閉じられず、口角が下がり、涎がこぼれる、高度顔面神経麻痺の典型例

Q2顔面神経麻痺が起きる病気について教えてください。

山田啓之

山田啓之
愛媛大学医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
准教授

顔面神経麻痺が起きる病気は沢山あります。その中でも最も多い病気はBell麻痺です。以前は原因不明と言われていましたが、現在では多くのBell麻痺で単純疱疹ウイルス1型が原因であることがわかりました。Bell麻痺は急に顔面神経麻痺が出現する病気ですが、麻痺の前に耳の周囲の痛みや味覚の異常などが起こることもあります。次に多い病気はハント症候群です。水痘帯状疱疹ウイルスが原因で発症します。典型的な症状は顔面神経麻痺と耳の帯状疱疹、難聴・耳鳴り・めまいですが、これらの症状の一部しか出ないこともあります。また事故で頭の骨を骨折して発症する外傷性麻痺や中耳炎が原因で起こる耳炎性麻痺もあります。さらに顔面神経にできる良性腫瘍(顔面神経鞘腫)や耳の前にある耳下腺にできる癌(耳下腺癌)などから顔面神経麻痺が起こることもあります(腫瘍性麻痺)。これらの病気以外にも脳梗塞・出血で顔面神経麻痺が起こることもあります。その時は顔以外の麻痺も伴うことが多いです。他にも顔面神経麻痺が起こる病気は沢山ありますが、早期の診断と治療が必要です。できるだけ早く顔面神経麻痺相談医にご相談ください。

特発性 Bell麻痺
感染性
  • ハント症候群
  • (Bell麻痺)
  • EBウイルス
  • HIV
  • 結核
  • 梅毒
  • Lyme病など
外傷性
  • 頭部外傷
  • 側頭骨骨折
  • 顔面外傷など
腫瘍性
  • 顔面神経鞘腫
  • 耳下腺癌
  • 中耳腫瘍
  • 小脳橋角部腫瘍など
脳血管障害
  • 脳梗塞
  • 脳出血
  • ワレンベルグ症候群など
自己免疫疾患
  • サルコイドーシス
  • ANCA関連血管炎など
先天性 先天性片側下口麻痺など
神経疾患
  • ギラン・バレー症候群
  • 多発性硬化症
  • 筋委縮性側索硬化症など
中毒性
  • 破傷風
  • ボツリヌス
  • 一酸化炭素など

顔面神経麻痺の原因疾患

Q3歯磨きの際、片側の口角から水が漏れることに気が付きました。いつ、何科を受診すればいいでしょうか?

近藤健二

近藤健二
東京大学大学院
医学系研究科外科学専攻
感覚・運動機能医学講座
耳鼻咽喉科学
准教授

ある日突然に片側の口角から水が漏れるようになった、は典型的な顔面神経麻痺の症状です。顔面神経の変性を食い止めるためにできるだけ早く副腎皮質ステロイド等の薬物療法を開始する必要があります。顔面神経麻痺の診療には診断、初期治療、リハビリテーション、後遺症の治療など様々な段階があり、多くの診療科がかかわりますが、まずは診断と初期治療を担当している耳鼻咽喉科をすみやかに受診していただくようお願いいたします。日本顔面神経学会のホームページでは各都道府県別に顔面神経麻痺相談医のリストを公開していますので、受診の際にご活用いただければと思います。

左顔面神経麻痺による顔面の変化

左顔面神経麻痺による顔面の変化

左の眉毛の位置が下がり、これに伴って上眼瞼(上まぶた)が下がります。左の口角が下がって鼻唇溝(ほうれい線)が浅くなったり消えたりします。また口の位置が右にずれます。左の唇の閉じが悪くなるため液体が口角から漏れやすくなります。

Q4交通事故で耳を強く打ち顔面神経麻痺になりました。どうすれば良いですか?

萩森伸一

萩森伸一
大阪医科薬科大学
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
専門教授

耳を強く打ったあとに顔面神経麻痺になった場合、耳の中を通る顔面神経の周りの骨が折れて(側頭骨骨折、図)神経を圧迫したり、神経が切れている可能性があります(外傷性麻痺)。耳鼻咽喉科のある病院を早く受診し、麻痺の評価やCT検査を受けるようにしてください。
耳を打った直後から麻痺が現れた場合は、顔面神経の相当強いダメージが考えられ、緊急手術が行われることもあります。耳を打って数日~1週間ほどして生じた場合には外傷に伴う出血や炎症が原因と考えられ、薬による治療を行い電気生理学的検査で障害程度を評価します。しかし、受傷時に意識がないなど、いつ麻痺が生じたのかわからない場合も少なくありません。早く病院を受診するようにしてください。

側頭骨(耳の骨)の骨折

側頭骨(耳の骨)の骨折

矢印は骨折線を示す

Q5ベル麻痺の治療でステロイドが処方されました。副作用が怖いですが大丈夫でしょうか?

山田武千代

山田武千代
秋田大学大学院
医学系研究科・医学部
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
教授

糖尿病、ウイルス性肝炎など基礎疾患がなければ、短期間のステロイド投与はあまり心配する必要はありません。糖尿病などがある場合は血糖をコントロールして使用します。ステロイド使用に伴うB型肝炎既感染者ではウイルスの再活性化による劇症肝炎の発症が問題になっており、全身ステロイド治療を行う場合は同時にHBs抗原などの検査を行う必要があります。HBV の再活性化はステロイドの投与量より投与期間に大きく関係します。持続してステロイドが投与する場合や投与量が多い場合は易骨折性、心不全などの合併症を生じます。プレドニゾロン換算で累積暴露が1gを超えなければ合併症の頻度は少ないと考えられます。

各都道府県別に顔面神経麻痺相談医のリストを公開しています。受診の際にご活用ください。

相談医・指導士一覧